以前の記事で書きましたが、タイ文字は声調の規則が難しく、世界の文字の中でも覚えるのが大変な部類に入ると思います。
個人的にも、ちゃんと確実に読み書きできるようになるまで最も時間がかかった文字です。
しかし、タイ文字と声調の関係を簡単にイメージで分かるようにしたYouTubeのある動画を最近見て、ちゃんと整理すれば世間で言われているほど難しくはないのかもしれないな、と感じました。
ちなみに、この動画の作者 (minerva scientiaさん)は言語に関わるマニアック貴重な動画を色々作られていて、個人的にはお勧めのチャンネルですです。
そこで、何回かに分けて、タイ文字を覚える際に役立つと思った情報や、自分が覚えた時の方法をまとめてみようと思います。
人によっては余計に感じる部分もあるかもしれませんが、参考にしていただければ幸いです。
はじめに
タイ文字は、主にタイ語を書くために使われる表音文字です。
外国語学習者の一部では、タイ文字は読めるようになるために時間が必要な、難しい文字として知られています。
タイ文字が難しい点はいくつかあります。
- 文字の種類が多い(子音40種類以上、母音20種類ぐらい)
- 声調を表す規則が難しい
- 書かれるときに単語が区切られない
特に、声調を決めるルールが一番難しいと思います。
声調記号が付いたときにどういう風に声調が変化するか、文字によって3パターンあります。
発音に加えてどの声調パターンかを文字ごとに覚える必要があるので、大変です。
このような感じのタイ文字をはじめからちゃんと覚えようとすると、分かりにくすぎて挫折する人もいるのではと思います。
なので、最初からタイ文字を完璧に覚えるのではなく、学びながらよく出る文字から覚えていき、ある程度進んだところで改めて文字全体を勉強する、という感じが一番効率が良いのかな、と思っています。
大体どの本でも初めの基本的な文法や表現にはアルファベットが振ってあるので、最初はタイ語のアルファベット表記を覚えておけば十分です。
しかし、タイ語を勉強するときに、タイ文字は遅かれ早かれどこかで覚えなきゃいけません。
なので、少しでもタイ文字を覚えやすくできるように、役立つような情報を数回の記事に分けて書いていきます。
今回は、そもそもなんでこんなにタイ文字が難しいのか、タイ文字の成り立ちについて書こうと思います。
「早く覚え方を教えろ!」と思うかもしれませんが、成り立ちを知っている方がより規則を理解して覚えられるので、何とか辛抱してください。
タイ文字の成り立ち
タイ文字は1283年にタイの王様ラームカムヘーン(รามคำแหง)によって作られたと言われています(上の写真のおじさんです)。
独自の文字がなかったタイ人のために、隣国のクメール王国(現在のカンボジア)で使われていた文字を元に、タイ語により合った文字を作り出しました。
特に、クメール語にはなかった声調を表すために、声調記号が導入されたのが画期的だったみたいです。(下図)
ここで覚えておきたいのは、クメール文字も元をたどればインドの文字を元に作られている、ということです。
インドの言葉はタイ語やクメール語と発音がだいぶ違いますが、タイに入ってきた仏典を書く際に、サンスクリット語などのインドの言葉の原型を留めた形でなるべく残したい、という考えがあったようです。
そのため、タイ語にはないようなサンスクリット語の音を元々表していたような文字が、大量にタイ文字に残っています。
インド系の文字(特に子音)の仕組み
ここで、タイ文字のもとになったインド系の文字の仕組みを軽く見ておきましょう。
現在ヒンディー語で使われているデーヴァナーガリーを例に出してみます。
インド系の文字は、子音の文字の周りに母音の記号が付く仕組みになっています。
(下の画像で黒い部分が子音、赤い部分が母音です。)
インドの学者たちが無茶苦茶優秀だったのか、インド系の文字では、子音の順番が、論理的に、ガチガチに定義されています。
デーヴァナーガリーの子音の並びを下に出してみます。
表の左から右、上から下に向けて子音の文字が順番に並んでいます。
表を左から右に見ていくと、「無声音無気音」、「無声音有気音」、「有声音無気音」、「有声音有気音」、「鼻音」と並んでいます。
「無声音・有声音」は喉を震わせないか震わせるかの違い、「無気音・有気音」は、発音するときに空気をいっぱい出すか出さないかの違いです。
発音の細かいことは説明が長くなってしまいますが、こういった子音の種類に乗っ取って、上のようなきれいな表ができる、という風に理解してください。
ちなみに、音のイメージがいまいちわかない人のために書きますが、一番上の段は「か」系の音で、左から「か」、「かはっ」、「が」、「がはっ」、「んが」のような感じの音です。
その下には「ちゃ」系の段、その後に2種類の「た」系の段、「ぱ」系の段が続きます。
その後の「接近音」以降(「や」「ら」「わ」や「さ」系の音)の並びは少し変わりますが、こんな感じに規則正しく並んでいる、と思っておいてください。
では、この流れを受け継いでいるはずのタイ文字ではどうでしょう。
ほぼ同じです。
いくつか追加されている文字があって、表の枠に2文字入っていたり、そもそも最後の方に文字が足されていますが、デーヴァナーガリーと基本的には同じ表に整理することができます。
タイ語とインド系言語の発音の差
ここで、タイ語とインド系の言語の発音の違いを見てみます。
タイ文字が作られた時代の話だと思ってください。
(厳密には正確じゃないかもしれませんが、タイ語の成り立ちを理解するためにある程度雰囲気で語ります。)
前の表のように、インド系の文字にいくつか追加をしてタイ文字ができたわけですが、この段階でタイ語にない発音の文字がいっぱい入っていました。
まずは、インド系の言葉の「そり舌音」(舌を反り返らせて発音する「た」)と「歯音」(普通の「た」に近い)はタイ人は区別できなかったので、両方とも日本語の「た」に近い「歯ぐき音」になりました(表の3, 4段目)。
タイ語の「歯ぐき音」はインド系言語の「歯音」に近かったため、タイ語の単語の「た」系の音を書き表すのには、4段目(元々の歯音)の文字が良く使われるようになりました。
また、タイ語にはインド系の「有声音有気音」(「がはっ」、「ばはっ」みたいな音)は無かったため、こういう音は「有声音無気音」(「が」や「ば」)として発音されるようになりました。
最後に、インド系言語には「しゃ」が2種類ありましたが、タイ人には発音できないため、タイ語では全て「さ」の発音になりました。
このような形で、タイ語にはなかった発音の文字が、タイ人に発音しやすいような形で残り、結果として発音がかぶる文字がたくさんできてしまいました。
タイ語の発音の変化
さて、1283年にめでたくタイ文字ができたわけですが、それから700年以上の間でタイ語も発音が変わりました。
具体的には、「有声音無気音」(「が」「だ」「ば」など)がちゃんと発音されなくなり、元々インド系言語では「有声音」だった音が、全て「無声音有気音」(「かはっ」、「たはっ」など)として発音されるようになってしまいました。
ただ、発音は変わったのに、文字はそのま
もともと、文字が開発された段階では例の表の縦の列の3列、4列目の文字が同じ発音になっていたのが、最終的に2列目~4列目が同じ発音になってしまいました。
さすがにそれでは紛らわしいと思われたのか、子音の発音が変わると同時に、2列目の文字の声調も変わりました。
子音の発音が似てきたかわりに、声調で区別されるようになった訳です。
やっかいなことに、声調で区別されるようになった文字は、声調記号がついた場合でも元と違う声調に変化するようになってしまいました。
その結果、「子音単独での声調」と、「声調記号が付いた場合の声調」で子音を分けたときに、最終的には3パターンの子音が出現しました。
例の表では声調のふるまいによって子音が色分けされていますが、かなり規則的に見えませんか?
同じ縦の列の中の子音の発音と声調が同じように変化したと考えると、色分けのされ方も何となくわかるんじゃないかと思います。
まとめ
今回は、そもそもなんでタイ文字がこんなに難しくなったのかを、成り立ちの話から説明してみました。
- 元々タイ語にない発音をあらわす文字が大量にあった
- 時代と共に発音が似てきたため、区別するために声調が変化した
タイ文字が難しい一番の理由は、発音が時代と共に変化したのに文字があまり変化しなかったからです。
結果として、同じ発音の文字が大量に残り、声調の規則も複雑になってしまいました。
ただ、発音が変化してきた経緯を知っていれば、声調の規則は多少わかりやすくなるんじゃないかと思います。
次回以降は、具体的にタイ文字をどうやって覚えるのが良いか、自分の考えを子音、母音、声調に分けて書いていきます。
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